大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和32年(行)11号 判決 1961年8月15日

判  決

東京都大田区石川町一七六番地

原告

小山田拓之

右訴訟代理人弁護士

岩田満夫

宮城県玉造郡鳴子町字末浜西一八番地

原告

村本庄治

右原告両名訴訟代理人弁護士

杉原荒太

山本忠義

手代木進

山田賢次郎

東京都千代田区霞ケ関二丁目二番地

被告通商産業大臣

佐藤栄作

右指定代理人法務省訟務局局付検事

朝山崇

同通商産業事務官

仲田嘉夫

滝秀雄

右当事者間の昭和三二年(行)第一一号鉱業法による異議申立棄却決定取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

被告が昭和三一年八月一一日付三一鉱第一一四号をもつて原告らに対してした原告らの秋田県試登第一七、一八一号及び同第一七、一八二号各試掘権についての鉱区表示変更処分に対する異議申立を棄却する旨の決定はこれを取消す。仙台通商産業局長が昭和三一年一月一七日付でした秋田県試登第一七、一八一号及び同第七、一一八二号各試掘権に対する鉱業法第六一条の規定に基く鉱区表示変更処分はこれを取り消す。

原告らのその余の訴を却下する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

(当事者双方の申立)

第一、原告ら訴訟代理人は、次のような判決を求めた。

一、被告が昭和三一年八月一一日付三一鉱第一一四号をもつて原告らに対してした原告らの秋田県試登第一七、一八一号及び同第一七、一八二号各試掘権についての鉱区表示変更処分に対する異議申立を棄却する旨の決定はこれを取り消す。

二、仙台通商産業局長が昭和三一年一月一七日付でした秋田県試登第一七、一八一号及び同第一七、一八二号各試掘権に対する鉱業法第六一条の規定に基く鉱区表示変更処分はこれを取り消す。

三、被告は仙台通商産業局長に対し、秋田県試登第一七、一八一号及び同第一七、一八二号鉱区の区域を別紙第四図面表示のとおり(第一七、一八一号につき同図面1ないし8の各点連結線をもつて囲んだ部分、第一七、一八二号につき同図面1ないし8の各点連結線をもつて囲んだ部分)に認定して鉱業法第六一条の規定に基く表示変更処分をすることの命令をせよ。

四、訴訟費用は被告の負担とする。

第二、被告指定代理人は、次のような判決を求めた。

一、本案前につき

(一) 本件訴を却下する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

二、本案につき

(一) 原告らの本訴請求はこれを棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

(当事者双方の主張)

第一、原告訴訟代理人は、請求の原因及び被告の主張に対する反論として次のように述べた。

一、請求の原因

(一) 原告村本は、昭和二四年八月二五日、秋田県雄勝郡東成瀬村大字椿川小字仁郷沢及びこれを流れる仁郷沢流域を中心とする周辺の区域の試掘権を確保するため、同県同郡同村及び岩手県西磐井郡厳美村地内に試掘権設定の出願をした(その範囲は別紙第一図面の(一)(二)に表示のとおり。以下本件出願図(一)(二)という。)ところ、その一部については先願者があつたため、不許可となり、その余の部分につき、昭和二七年四月二日付秋田県試登第一七、一八一号及び同第一七、一八二号をもつて試掘権設定登録(以下本件各試掘権という。)された。(その範囲は別紙第二図面の(一)(二)に表示のうおり。以下本件許可図(一)(二)という。)そして同年一二月二三日原告小山田が原告村本とともに右各試掘権の共有権者となつた。

(二) 仙台通商産業局長(以下仙台通産局長という。)は、昭和三一年一月一七日付で職権により右試掘権につき鉱業法第六一条の規定に基き右鉱区の境界、面積につき表示変更処分(以下本件表示変更処分という。)をした。(別紙第三図面のとおり。以下本件変更図という。)原告らは、右処分を不服として法定の申立期間内である昭和三一年一月二八日、被告に異議申立をしたが、被告は、昭和三一年八月一一日付三一鉱第一一四号をもつて右異議申立を理由なきものとして棄却する旨の決定(以下本件異議申立棄却決定という。)をして仙台通産局長の右表示変更処分を認容した。

(三) しかし、本件表示変更処分及びこれを認容した本件異議申立棄却決定は、次のとおり誤つた鉱区々域の認定方法に則つた違法な処分である。

(1) 本件試掘権の設定を出願した区域は本件出願図のとおりであるところ、その主要目的地域は、仁郷沢及びその流域を中心とするその周辺地帯であつて、このことは右図面の記載を見れば明らかであるし、また本件許可図にもその旨が明瞭に図示されており、かつ右いずれの図面にも仁郷沢が表示されているのみならず、原告村本は、右地帯において探鉱を行い、その目的とする鉱床が存在することを発見し、これを前提として仙台通産局長に対し、鉱業法第六三条により施業案(同案添付図面には鉱床の探鉱を仁郷沢右岸で行つたことを明記してある。)を提出して同局長により受理され、早くから原告村本の鉱区内と認められていたことからも明らかであるのに、本件表示変更処分における原告らの有すべき鉱区についての認定は、本件変更図のとおり、第一七、一八一号鉱区については同図1(8)、2(7)、3(6)、41(8)の各点連結線をもつて囲んだ部分、第一七、一八二号鉱区については4、5、67、8、9、10、11、4の各点連結線をもつて囲んだ部分であつて、原告村本が試掘権設定の最も重要な眼目とした仁郷沢及びその周辺地域を原告らの鉱区外としてこれを原告村本より後の出願者である栗駒鉱業株式会社の有する鉱業権(秋田県試登第一七五五一号)の存する鉱区内に属すると認定した。しかして鉱区々域の認定には出願図を表示されている地形、地物、特に出願人が出願の眼目とする鉱区内に存する特徴のある地形、地物を中心としかつ重点とすべきものであり、いわゆる基点と測点並びに測点間の方位角ないし距離はたんに二次的補助的方法として用うべきものである。このことは鉱業権設定出願図面が実測を要しない粗雑、不正確なもので足りるとされていること及びその出願図面を作成する実際上の面からも旧鉱業法時代より数十年に亘つて認められている原則であるし、鉱業権設定許可官庁も従来右原告ら主張のような方法で処理をしてきたし、旧行政裁判所の判例でもほとんど右の方法によることを支持して例外がない。(行政裁判所明治四三年第二一四号事件判決、行判第二一輯一四九四頁。同大正七年第二九号事件判決、行判第三〇輯二四四頁。同大正九年第一七〇号事件判決)しかるに仙台通産局長及び被告は出願図に明示されている小字仁郷沢及び仁郷沢流域の表示を無視し、主として測点付近の地形、測点間の方位角及び距離によつて原告らの鉱区につき認定をし、故意に原告らが試掘権設定の眼目とした目的鉱床の存在する仁郷沢流域の周辺地帯を鉱区々域外に逸脱せしめてこれを前記栗駒鉱業株式会社の鉱区としてこれに与えて原告らの本件試掘権を侵害した。

(2) 仙台通産局長が本件表示変更処分によつて仁郷沢流域を原告らの鉱区から逸脱せしめて隣接秋田県試登第一七、五五一号鉱区に編入したことの不当であることは次のことによつても明らかである。すなわち、右隣接鉱区は昭和二五年六月二〇日三笠米蔵によつて出願され、昭和二八年一一月一六日米陀元次郎に出願名義が変更され、昭和二九年三月五日に試掘権設定出願の許可を受けたものであるところ、当初の出願人三笠が原告らと同様仁郷沢流域の鉱床を目的としていたことはその提出にかかる出願図(別紙第五図面、以下本件隣鉱区出願図という。)において基点を仁郷沢川又に設けていることによつて明白であり、現に両人は昭和二六年一〇月二三日の仙台通産局係官立会の現地調査に続く二日間に亘つて原告小山田と同道して仁郷沢流域を踏査し、その右岸に存在する鉱床をともに確認したのであるから、同人と原告らの出願鉱区のいずれに右鉱床を包含せしめるべきかは出願日時の前後によつて定められるべきであるが、原告村本の先願であることは前記出願日時を比較すれば明白である。なお米陀は昭和二九年一月二三日に別紙第六図面の修正図(以下本件隣鉱区許可図という。)を提出してこれに基いて前記試掘権設定許可を受けたものであるが、右図面において米陀の鉱区とされた区域は本件試掘権に関する本件許可図(二)において原告らの試掘鉱区とされた区域と照応するものであり、明らかに仁郷沢流域は鉱区より除外されているのである。総じて鉱床露頭の発見のためには、とくに深山地域において頼り得る唯一の地形目標は沢であり、このことと出願当時本件係争の鉱床に臨み得る経路は仁郷沢のみであつたことを考えあわせるならば、原告らの鉱区認定につき仁郷沢が決定的要素となることは当然であるといわなければならない。

(四) 本件各試掘鉱区認定の根拠とさるべき本件出願図の表示によれば、別紙第四図面表示のとおり右鉱区を認定するのが相当であり、本件変更図表示のような認定の不当であることにつき具体的に説明すると次のとおりである。

(1) 第一七、一八一号鉱区について

(イ) 本鉱区の出願図には測点が一号から八号まであり、四号測点(変更図の二号測点に該当する。)は、仁郷沢の基点川又と五八度九四間をもつて結測し、四号測点附近には小字仁郷沢、鉱区南方寄には小字西劒山及び可成りの規模の流域の表示がある。

(ロ) 本件変更図では本鉱区において最も重要な仁郷沢基点川又から五八度九四間に結測した四号測点(変更図では二号測点)を三七度二〇分六七〇米の地点に移動させた結果原告村本の出願目的地である小字仁郷沢が鉱区外となつた。前述のとおり本件出願図(二)には小字仁郷沢の表示があり、本件許可図(二)にもその表示があるのであるから、これを無視したのは明らかに不当である。なお、仁郷沢基点川又からの方位角及び距離によつて四号測点を定めても小字仁郷沢は鉱区内に包含される筈である。

(2) 第一七、一八二号鉱区について

(イ) 本鉱区の出願図には測点が一号から八号まであり、八号測点から一号測点を経て四号測点にいたる線内の略中央に岩手、秋田両県境があり、県境と二号測点を結ぶ線の間に須川岳国有林が表示されている。また四号ないし八号測点を結ぶ線で囲まれた細長い区域には小字仁郷沢を表示し、中央には右小字仁郷沢を流れる相当大きな渓流として仁郷沢を表示し、さらに渓流の上流方面には仁郷山国有林を表示している。また五号測点附近の片隅に鉱区内外に渉つて朱沼を表示しており、四号ないし八号測点を結ぶ線で囲まれた部分では仁郷沢の渓流と仁郷山国有林の表示が最も顕著かつ重要な表示となつている。

(ロ) 本件変更図では小字仁郷沢及びこの地域を流れる仁郷沢流域の表示が全然無視されて鉱区外とされているが、小字仁郷沢は出願図肩書にも明記されまた同沢流域は同四号ないし八号測点を結ぶ線で囲まれた細長い部分の中央に相当大きく表示されているし、本件許可図(二)においても同様である。しかも仁郷沢流域は架空のものではなく厳として存在するのであるから、附近の最も顕著な地形上の特徴である同沢流域の表示を無視するのは甚だ不当というべきである。なお本鉱区の出願図は第一七、一八一号鉱区の出願図と測点を共通にして隣接しているが、後者においてもその四号測点(本鉱区出願図では七号測点)の外側に仁郷沢流域を表示し、その内側に小字仁郷沢を他の小字との境界とともに明確に表示し、しかも四号測点は仁郷沢川又と五八度九四間で結測しているのは、いかに出願人である原告村本がこれを重視し主要願意としたかということを表示上から肯認しうるのである。

(ハ) 本件変更図では仁郷沢国有林が鉱区内に包含されていないことは仁郷沢についてと同様に甚だ不当である。

(ニ) 本鉱区の出願図には劒沢は鉱区内外のいずれの部分にも記載されていないし、(許可図においても同様である。)実際に同沢は仁郷沢より規模が小さく、その沿岸には鉱床も存在しないのに、本件変更図がこれを本鉱区内に包含せしめたのは不当である。

(ホ) 本鉱区の出願図における朱沼、仁郷沢、仁郷山国国有林の各位置の相互関係は実地と相違するので、もし右朱沼の表示を正しいとすれば仁郷沢及び仁郷山国有林の表示は誤となるし、また後者の表示を正しいとすれば前者の表示は誤となる。しかしてそのいずれを正しいものと認めるかは表示の重要度によると解すべきである。ところで本件出願図(二)では朱沼は五号測点附近の鉱区の片隅に鉱区の内外に跨つて表示されているにすぎず、本鉱区にとつて大して重要な存在ではないと解せられるのに対し、仁郷沢及び仁郷山国有林は四号ないし八号測点を結ぶ細長い区域の中央に相当広範囲に亘つて表示されているし、隣接第一七、一八一号鉱区の出願図にも表示されているのであるから、両者のいずれをより重要と解すべきかは一見して明らかである。したがつて本鉱区出願図の朱沼の表示を誤記と認定すべきことは事理の当然である。もし朱沼の表示を正しいものとすれば、本件変更図のように仁郷沢及び仁郷山国有林を無視して鉱区外に追いやり、あまつさえ前述のとおり本件出願図(二)には全く表示されていない流域の劒沢を鉱区に包含させなければならないような不合理な結果となる。しかるに仙台通産局長は、本鉱区出願図の数ある表示の中から朱沼の表示のみ抽出してこれのみを正当とし、その他の表示を無視して本件表示変更処分をしたのである。

(五) よつて本件表示変更処分及びこれに対する原告らの異議申立を棄却した本件異議申立棄却決定の取消を求め、さらに、右に述べてきたところからすれば本件試掘権の鉱区々域は、別紙第四図面表示のとおり認定するのが相当であるので、そのように認定すべき旨の命令を被告が仙台通産局長に対してすることを求める。

二、本案前の申立の理由に対する反論

(一) 本件各試掘権の存続期間が昭和三三年四月二日満了したことは認めるが、右期間満了は直ちに本訴請求をする訴の利益を失わしめるものではなく、原告らはなお本訴請求につき次のような法律上の具体的利益を有する。

(1) 原告らは、仙台通産局長のした違法な本件表示変更処分により本来原告らの試掘鉱区に属する仁郷沢流域を中心とする鉄鉱床を含む七、七三六アールの区域を栗駒鉱業株式会社の有する隣接の秋田県試登第一七、五五一号鉱区に属するものと認定された結果、昭和三一年以降同会社のため該鉄鉱床より鉄鉱石五〇、〇〇〇屯を採掘取得せられ、総額金六〇、〇〇〇、〇〇〇円の損害をこうむつたものであるが、右損害の賠償を求めるため昭和三十四年六月二二日国を被告として東京地方裁判所に訴を提起し、現在同裁判所に係属中である。しかして右損害は原告らの試掘権存続期間中に発生したものであり、本件表示変更処分が取り消されれば現在における原告らの試掘権の存否にかかわらずその賠償を請求しうるものであるから、原告にはなお本訴請求につき法律上の具体的利益を有する。

(2) 原告らは、本件各試掘権の期間満了に先だち試掘権者として採掘権を確保するため本件試掘鉱区の大部分につき採掘権設定を出願した。すなわち、昭和三三年三月六日、原告らは、本件表示変更処分において原告らの鉱区として認定された区域のうち、七、六〇三アール(本件変更図記載の区域中北側三、四六五アール及び同図第九号測点と同点より一九九度三〇分三五〇米の点を結ぶ線から南東側の部分を除外した部分)につき採掘権設定出願をなし、同月一四日仙台通産局長により受理された。しかして同月一二日、先に除外した北側三、四六五アールにつき増区を出願し、結局同年七月一五日、原告らに対し秋田県採登第九三二号をもつて一〇、八九六アール(本件変更図中第一七、一八二号については第九号測点と同点より一九六度四〇分三六五米の点を結ぶ線より北側の部分)につき採掘権設定登録がなされた、さらに、昭和三三年三月六日、原告らは、本件表示変更処分により原告らの試掘鉱区外と認定された区域七、六三六アール(本件変更図の第一七、一八二号鉱区第四号測点と第五号測点を結ぶ線より西方の部分)についても前同様採掘権設定出願をなし、四月一四日仙台通産局長より受理されたが、右出願については本訴の判決後処分されたい旨の申請を付し、現在まで処分を保留されており、本訴において原告らの請求が認容されれば当然採掘権設定が許可される筋合にある。したがつてこの点からも原告が本訴追行の具体的利益を有することは明らかである。

(二) 本訴請求のうち本件表示変更処分の取消を求める部分については、被告は本件表示変更処分について訴願裁決庁の立場にあるから、仙台通産局長のした右処分の取消を被告を相手方として求めることは適法であると解する。

三、被告の主張に対する原告らの反論

(一) 鉱権設定の出願図面は鉱業権を獲得しようとする地域(採掘しようとする鉱物の埋蔵地域)を表示するものであつて、鉱業権設定の許可を求める意思表示の重要な部分を形成する。ただ、その図面は旧鉱業法、現行鉱業法のいずれにおいても実測図を要求せず縮尺と真北線の記載があれば足りるとされているので、鉱区の認定(出願図面表示の客観的意義の決定)が必要となる。そして出願区域を表示した方位、距離、地形上の特徴、地物、鉱床等につき実地との間に不一致があれば、鉱区の範囲を合理的に判断するための基準が必要となる。この場合前述のとおりいわゆる地形主義がその基準とされているわけであるが、これは鉱区の認定について出願人による区域表示の方法中区域内の地物、地形上の特徴、すなわち山、川、渓流、鉱物の露頭等を中心としてこれをなすべく、それらを基点と測点並びに測点間の方位、距離よりも尊重せよとの原則にほかならず、鉱業権許可官庁がこれを合理的として数十年にわたり採用してきたのは、ある地域に鉱物の存在を発見したときは、出願人はその地域の山、川、渓流、鉱物の露頭等その地域の地物及び地形上の特徴を調査し、これに基いて出願区域を定めるのが普通であつて、鉱業法所定の様式等で明示すべきことを定めた不動基点、基点と測点間及び測点相互間の方位、距離等の如きは右のようにして決定した区域に附随的に図示されるのが普通のことであるからであつて、右様式違背の出願を無効とする規定もなく、実測を要しない不正確な出願図で明確な方位、距離の表示を求めることはそもそも不可能であるし、出願人の願意に沿わない危険があるからである。その結果、鉱区の認定に当つて基礎、重点となるべきものは出願図に表示された区域内の地物地形上の特徴でなければならない。被告の主張する方法は、出願図のあらゆる表示を綜合して行うもので、いわば多元的認定というべく、そこに何らの基準も客観性もなく、公正な結果を期し難い。

(二) 鉱業法第六一条にいわゆる「鉱区の所在地」とは鉱区の区域を指称することは明らかであるから、同条は鉱区図が鉱区の実地における区域と相違する場合は実地に適合するよう更正する手続規定であるところ、元来鉱区の実地の区域なるものは鉱区図と離れて別個に存存するわけではなく、鉱区図の記載によつて定まるのであり、しかもこれが実地と相違することを認めていることは、鉱区図に記載された範囲内で何か実地と相違しないものが存在しなければならぬ筈で、その故にこそ実地と相違するものがあるといい得るからである。そこで本件鉱区の認定も結局鉱区組成の要素として初めから存在する正しいものが何であるかを決定する問題であるわけである。その要素として初めから存在し動かないものは理論上いわゆる前記地形主義による鉱区内の地形、地物等の顕著な特徴であるべきである。けだし被告主張の測点間の方位、距離はその要素としては常に動揺する可動的なものである筈だからである。したがつて、鉱区区域の認定が原告主張のとおりの方法によつてなされるべきことは鉱業法も明文で認めていることは疑の余地がない。

(三) つぎに、被告は本件許可図を本件鉱区認定の根拠としているが、同図面は仙台通産局長の修正命令によつて提出されたものであるから、これを認定の根拠とすることは誤つている。けだし、出願区域は最初の出願図によつて決定されている筈であるのに本件許可図は本件出願図と表示も異り、これを根拠とすれば鉱区の実体の認定にも影響があるからである。

(四) 仮りに本件鉱区の認定を被告主張のとおり本件許可図に基いてなすべきものとしても、本件表示変更処分はなお次のとおり違法である。すなわち、本件許可図においても本件二鉱区とも小字仁郷沢及び仁郷山国有林が表示されているのにこれを無視して鉱区外とし、本件許可図に表示していない劒沢の渓流を鉱区内に包含させている。また、本件許可図表示の地形地物は等しく鉱区認定の基礎である筈なのに、何故に測点附近のそれのみを重視して鉱区内の地形、地物が無視されねばならぬのか明らかでない。本件表示変更処分は鉱区区域を測点附近の地形を基礎にしてこれに方位、距離を交ぜ合わせて認定し、鉱区区域内の表示を無視しているというほかはない。仙台通産局長としては鉱区区域内に表示された顕著な地形地物を把握し、これを根拠にして方位、距離その他を補足的に用いて認定すべきであり、そうすれば別紙第四図面表示のとおり認定をするのに容易であつた筈である。

(五) 被告はまた、鉱区の認定は表意者である出願人の真意を探究して決定すべきものであるかの如く主張するが、誤である。けだし鉱区の認定は意思表示の一種である図面表示の解釈の問題であるから、表示行為すなわち図面の表示が有すべき客観的意義いかんを決定することでなければならないのである。被告が本件出願図(一)あるいは本件許可図(二)の表示上さして重要でない朱沼の表示のみに拘泥し、表示上極めて重要な仁郷沢及び仁郷山国有林を鉱区外に追いやり、さらに鉱区には全然表示しない劒沢を鉱区に含ませるような認定をしているのも右の過誤による結果である。

(六) 原告村本は、本件二鉱区に関し、昭和二七年九月二八日付で鉱業法第六三条により鉱業施業案を提出し、仙台通産局長によつて昭和二七年一一月二七日受理された旨通知があつたが、その際提出した鉱区図にも本件第一七、一八二号鉱区内には仁郷沢を表示し、その右岸地帯において探鉱実施した旨記載してあつたのであり、同局長が右施業案を受理したのは鉱区内に記載されていた小字仁郷沢及び同地を流れる流域を鉱区内と認めたために外ならない。

(七) 被告は、本件出願図(一)(二)及び本件許可図(一)(二)に表示されている流域に付せられた仁郷沢の名称は劒沢の誤記であると主張するが仁郷沢の流域はその附近で最も大きく、V字形を成すいわゆる壮年期の渓谷であるのに対し、劒沢は仁郷沢の支流であつてこれより逢かに小さく、いわゆる幼年期の渓谷に属し蛇行形で浅く流水量も少いし、地理調査所発行の縮尺五万分の一の地形図(以下五万分図という。)においても仁郷沢は流域として明らかに名称も付されて表示されているのに対し、劒沢は単に等高線をもつて表示されているのみである。したがつて本件各出願図、許可図に表示された流域はたとえ仁郷沢の名称が付せられていなくとも仁郷沢を表示したものであることは何ら疑いない。いわんや第一七、一八二号鉱区の出願図を除く(この図面でも小字仁郷沢の表示があるからそこに表示されている流域が仁郷沢のことであることは容易に認めることができる。)右各図面には仁郷沢の名称が明示されているにおいておやである。しかも劒沢はたとえ仁郷沢より小規模とはいえ明白な名称を有する沢であるから、単に朱沼の表示との関係だけから臆測して現実に存在し、しかも明確に表示されている仁郷沢の名称を劒沢の誤記と解することの不当であることはいうまでもない。

第二、被告指定代理人は、本案前の申立の理由、請求原因に対する答弁及び被告の主張として次のとおり述べた。

一、本案前の申立の理由

(一) 本訴請求のうち本件表示変更処分の取消を求める部分について被告は被告適格を有しない。すなわち、一般に行政庁の処分の取消又は変更を求める訴は、法律に特別の定めがある場合を除いて処分した行政庁を被告として提起しなければならない。しかして原告らが取消を求めている本件表示変更処分の処分庁は仙台通産局長であるから、被告適格について特段の定めのない本件の場合には、右処分の取消を求める訴につき被告適格を有する者は右局長のみに限られる。もつとも、異議申立について決定をした行政庁を被告として、原処分の取消を求めることができるとする見解もないではないけれども、かく解することは行政事件訴訟特例法第三条の文理に副わないし、又同条は、係争処分に最も関係の深い処分行政庁を訴訟の当事者として攻撃防禦の方法を講じさせることが裁判の迅速、適正を期する上に適当であるとの実際上の便宜を考慮して設けられた規定であるところ、異議の決定と原処分とでは行政庁の判断事項が異なり、したがつて適法要件も必ずしも一致しないのであるから、それぞれの処分の取消を求める訴においてはそれぞれの処分庁を被告とすることが同条の趣旨にも合致するものというべく、それ故に右の見解をとることはとうていできない。

仮りに異議決定庁を被告として原処分の取消を求めることができるとしても、少くとも同一の理由をもつてする限り異議決定の取消と原処分の取消とを併せ求める法律上の利益はない。けだし、行政訴訟における確定判決は、その事件について関係の行政庁を拘束するからである(行政事件訴訟特例法第一二条)。これを本件についていえば、原告らは被告のした処分の取消を求める理由と同一の理由をもつて仙台通産局長のした処分の取消を求めているのであるから、もし前者の請求を認容する判決が確定すれば、後者の処分自体は取消を免れず、したがつて被告のした異議決定の取消に併せて原処分の取消を訴求する利益はないというべきである。

(二) 本件各試掘権は、昭和二七年四月二日その設定登録を受け、その後鉱業法第一八条によりいずれも二回にわたり存続期間を延長されたが、昭和三三年四月二日それぞれ期間満了により消滅した。したがつて本件各試掘権がすでに消滅している以上原告らはその鉱区の表示変更処分、又はこれに対する訴願の裁決の取消を求める法律上の利益を失つたものといわなければならない。なお、原告らは昭和三三年三月六日右試掘鉱区の一部につき採掘権設定の出願をなし、ついで同月一二日右出願区域の増区を出願し、同年七月一五日採掘権の設定登録を受けたが、このことは試掘権の消滅により本件訴の利益を欠くにいたつたことに何ら影響を及ぼすものではないのみならず、あらたに設定を受けた右採掘権の鉱区は、本件第一七、一八一号試掘鉱区全部と第一七、一八二号試掘鉱区の一部に一致し、本件係争地域である本件変更図上の第一七、一八二号鉱区第五号測点と第四号測点とを結ぶ線より西方の部分は含まれていないのであるから、右係争地域に関する限り本件試掘権と採掘権は何らの関連も有しない。なお、右採掘権は昭和三五年一月二一日、原告ら両名から原告小山田及び訴外祐徳鉱業株式会社に譲渡され、同年三月三〇日その旨の登録を了している。

原告らは、右係争地域にいても採掘出願中であり、これと重複する栗駒鉱業株式会社の鉱業権に対し優先的順位を確保するために本件訴の利益があると主張する。しかし、本来鉱業法第六一条に基く表示の変更は、鉱区の所在地の名称もしくは地目、境界又は面積についての鉱区図の記載が事実と相違することを発見した場合に、この誤つた表示を更正し、もつて鉱区図の記載を事実に合致せしめるためのものであるにとどまり、鉱区の増滅とは異つてこれにより本来存する鉱区の客観的範囲に消長を来す効果を有するものではない。採掘権は試掘鉱区の範囲内において(試掘権存続中の採掘権設定出願により)優先的順位を確保しうるけれども(鉱業法第三〇条、第二七条)、それは試掘鉱区の客観的範囲によつて定まるのであり、試掘鉱区図に表示の変更があつたからといつて、これによつて採掘権の範囲が法律上左右されるものではない。それ故すでに試掘権が期間の満了によつて絶対的に消滅した後は、採掘出願に対する処分においてかつて存した試掘権の客観的範囲と不一致を生じた場合に始めてこれを理由として採掘権設定出願に対する処分につきその違法を争いうるのであり、この場合右不一致が認められるときは試掘鉱区図に存した表示変更に何ら拘束されることなく試掘権の範囲が決せられるべく、その結果隣接鉱区と重複を生ずる場合には隣接鉱区について減区又は表示変更による是正がなされることとなるのであるから、これによつて採掘権設定出願人の権利保護に欠けるところはないのである。すでに消滅した試掘権の鉱区図上の表示変更の当否ないし試掘鉱区の客観的範囲如何はそれ自体過去の法律関係であつて取消によつて回復しうる法律関係ではないのであり、しかもそれが後の法律関係たる採掘出願に対する許否に影響を持つとしても前述のように後の採掘出願に対する許否の処分を争う争訟においてこれを主張するに何の妨げもないのであるから、すでに消滅した試掘権に関する法律関係をそれ自体訴訟の対象とすることは許されない。

さらに原告は、試掘権存続期間中に右係争地域において栗駒鉱業株式会社が採掘をしたことによりこうむつた損害の賠償を求めるために本訴の利益があると主張する。しかし、かかる損害賠償を訴求するに当つては、その構成要件事実として表示変更の当否ないし試掘権の範囲を主張するのは何ら妨げないことであつて、右訴訟の前提として予めこれと別個に表示変更処分の取消を訴求しなければならない必要はない。もつとも表示変更処分が違法として取り消されれば、それは後の損害賠償の請求に影響を及ぼすであろうが、しかしこのような関係が存在するからといつて、そのことのために当然に直接損害賠償を請求してその中で争えば足りる事項についてこれを別個に独立の訴を提起する利益が肯定されるわけのものでないことは明らかである。

(三) 本件訴のうち被告に対し、仙台通産局長に対して原告ら主張のような表示変更処分をすることを命ずることを求める部分は、要するに行政庁に対してあらたな行政処分をすることを命ずる判決を求めるものであるから不適法であるのみならず、もし本件表示変更処分の取消を求める部分につきこれを認容する判決がなされて確定すれば、仙台通産局長はこれに拘束され、本件表示変更処分を取り消したうえ右判決の趣旨に沿つてあらたに表示変更処分をしなければならないのであるから、右取消請求のほかにかかる積極的な処分をすべきことを求める利益もないというべきである。

二、請求原因に対する答弁

請求原因(一)記載事実のうち原告村本が昭和二四年八月二五日秋田県雄勝郡東成瀬村及び岩手県西磐井郡厳美村地内の出願図表示の区域につき本件出願図(一)(二)に基き試掘権設定の出願をし、昭和二七年秋田県試登第一七、一八一号、同第一七、一八二号をもつて本件許可図(一)(二)表示の区域につき昭和二七年四月二日各試掘権設定の登録を受けたこと、その後原告ら主張の日原告らが本件各試掘権につき共同鉱業権者となつた旨の登録がされていることは認めるが、その余の事実は争う。同(二)記載の事実は認める。同(三)記載の事実は争う。

三、被告の主張

(一) 原告村本が本件各試掘権の設定出願をしてから、本件表示変更処分がなされるに至るまでのいきさつは次のとおりである。

(1) 昭和二四年八月二五日、原告村本は、仙台通産局長に対し、本件各試掘権について、その設定の出願をしたが、同局長は、その審査中、願書に添付された各区域図(本件出願図)に示された地形等が五万分図に表示されている地形等と相違することを発見したので、これを五万分図に合致させ、他方縮尺六千分の一で作成された出願図を縮尺五千分の一に修正させるため、昭和二六年一一月二六日、鉱業法第一八二条にもとずいて原告村本に対して出願図の修正を命じたところ、同原告は、五万分図に合致する区域図(本件許可図)を提出した。そこで、同局長は、右図面にもとずいて出願を許可し、昭和二七年四月二日本件各試掘権設定の登録をした。

(2) ところが、その後仙台通産局係官による現地調査の結果、五万分図が現地の状況と相違し、したがつて本件許可図もまたこれに相違することが発見されたので、昭和三一年一月一七日、同局長は、鉱業法第六一条にもとずいて本件許可図(一)(二)を本件変更図のとおり更正する旨の本件表示変更処分をなし、本件各試掘権について表示変更の登録を行つた。

(二) 本件表示変更処分は次のような理由によつて適法であり、したがつてこれを認容した本件異議申立棄却決定も適法である。

(1) 一般に鉱区の認定については鉱業法第二一条、同法施行規則第四条が鉱業権設定の出願区域は地形図を基礎として表示し、さらに基点と測点並びに測点間の方位、距離を記載して明確にすることを要求しているところから、鉱区の区域は、測点附近及び測点間の地形、基点と測点及び測点相互間の方位、距離等を総合して決定さるべきであることが明らかである。このことは旧行政裁判所の判例(行判明治四三年一二月一〇日、行録第二一輯一、四九四頁。同大正八年七月二九日、行録第三〇輯七二八頁。同大正一一年一二月一九日、行録第二三輯一、四八二頁。同昭和五年五月一五日、行録第四一輯八九〇頁。)よつても明らかである。原告らは、現存地物が出願図に表示されている限りこれより、かつ表示されている範囲内で鉱区を認定すべきもの(原告らのいわゆる地形主義)と主張するが、しかし出願図表示の地形は、それが真実の地形(その所在の位置をも含めて)と合致し、実地の表示と認められる限りにおいて意味があるが、附近の地形及び基点、測点からの方向、距離等との総合判断を経なければ右合致の有無を明らかにすることができないのが一般であるから、出願図面に表示されていない地形地物をすべて無視したうえ表示されている地形だけによるべきことが失当であることは明らかである。

(2) 仙台通産局長は、右のような観点のもとに次のように許可図の表示にもとずいて原告らの鉱区の測点を確定して本件変更図のとおり右鉱区の範囲を決定した。

1、第一七、一八一号鉱区について

本鉱区の測点は一号から四号までの四点であつて、これら測点を順次直線で結んだものが鉱区の境界である。本件変更図におけるこれら測点の位置は次のとおり正当である。

((イ)(ロ)(ハ)(ニ)省略)

2、第一七、一八二号鉱区について

本鉱区の測点は一号から一一号(一号ないし五号測点は、本件許可図(二)、本件変更図ともそれぞれ1ないし5と、六号測点は本件許可図中6、3、本件変更図中6、8、3と、七号測点は本件許可図、本件変更図とも7、2と、八号測点は本件許可図、本件変更図とも8、1と、九号ないし一一号測点は本件許可図(二)、本件変更図ともそれぞれ9ないし1と各表示した点を指す。)までの一一点であつて、これら測点を順次直線で結んだものが鉱区の境界である。本件変更図におけるこれらの測点の位置が正当であることは次のとおりである。

((イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(a)(b)(c)(d)省略)

(証拠関係)(省略)

理由

第一、本案前の申立に対する判断

一、本件表示変更処分の取消を求める請求につき通産大臣は被告適格を有しないという被告の主張について。

行政庁の違法な処分の取消又は変更を求める訴については、その行政処分をした行政庁を被告としてこれを提起しなければならないことは行政事件訴訟特例法第三条の規定するところであるが、その趣旨は、かかる訴訟の結果は当該処分の運命を左右するものであるから、右処分に係る事項につき管理権限を有する処分行政庁を被告として訴訟に関与せしめるのが右訴訟の本質に合致すると考えられることと、当該処分につき調査を行い、その間の消息に通じ、かつ資料をも具有している処分行政庁を当事者とするのが訴訟の追行上最も合目的的であるという実際的見地に基くものと考えられるところ、ある行政処分に対して上級行政庁に訴願が提起され右行政庁によりその当否の判断がなされて原処分を認容する趣旨の訴願裁決がなされた場合には、右訴願裁決庁もその限りにおいて当該処分に係る事項に関して管理権限を有するものといえるし、また実際上もその処分について審査を行い、これに関する知識資料を具有しているものと考えられるから、かかる訴願裁決庁を被告として原処分の取消を求めることを許しても、右行政事件訴訟特例法第三条の規定の趣旨に反するものではないと解するのが相当である。しかして被告は原処分たる本件表示変更処分に対する異議申立についてこれを棄却する旨の決定をしたのであるから、右処分の取消を求める請求についても訴願裁決庁として被告適格を有するものと解すべきである。したがつて被告の右主張は理由がない。

二、本件異議申立棄却決定の取消と本件表示変更処分の取消をあわせて求める法律上の利益はないという被告の主張について。

一般に訴願裁決と原処分のいずれかを取り消す旨の確定判決があればこの確定判決は関係行政庁を拘束することは行政事件訴訟特例法第一二条の規定するところであるから、原処分によつて違法に権利又は利益を侵害された者は違法事項を共通にする限り原処分か訴願裁決かのいずれかの取消を求めれば足りる筋合であるが、しかしこのような場合に原告に対して常に原処分の取消又は訴願裁決の取消のいずれか一方のみを選択することを要求し、両者の取消をあわせ求めることは許されないとまで解する必要はない。何となれば、原処分に違法がないとしてその取消請求が棄却される場合ででも、なお訴願裁決手続における瑕疵によつて裁決が取り消されれば、原告としてはさらに適法な手続による裁決によつて原処分の当不当につき判断を受ける可能性が生ずるのであるから、原処分の取消のほかに訴願裁決の取消を求める利益がないとはいいきれないからである。もつとも本件のように、原告らが共通の違法事由のみを主張して原処分と訴願裁決の各取消を求め、後者について独自の違法事由を主張していないような場合には上述のような可能性がないわけであるから、この場合には上記の理由はそのままにあてはまらない。しかしこのような場合においてもなお、次に述べる理由により両請求の併合を許して然るべきものと考える。すなわち、元来原処分とこれを認容した訴願裁決とは、形式上は互に別個の行政処分であるが、両者は実質的には密接な牽連関係を有し、訴願裁決は原処分を離れては格別の存在意義を有せず、また原処分も訴願裁決を経ることによつて単なる原処分庁の判断のみに基く、処分たるにとどまらず、訴願裁決庁によつても支持された処分としての意味をもつに至り、いわば両者が一体として当該系列における行政庁の処分を形成するものと考えられないこともないのである(このことは、原処分庁による処分理由と訴願裁決庁による原処分認容の理由とが必ずしも同一でない場合に特によくあてはまる)。それ故原告が一個の訴において共通の違法事由を主張して原処分とこれを認容した訴願裁決の各取消をあわせ求めるのは、一般にかかる一体となつた行政庁の処分、いわば裁決の衣をぶつた原処分の取消を求める趣旨に出たものと解すべきであり、その限りにおいて両者はいわば不可分の関係にあるとも考えられるのである。したがつてかかる関係にある両請求を互に切り離し、一の請求が認容されれば他の請求はその必要を欠くに至るから後者については訴の利益がないとしてこれを排斥するのは、当を得た解釈ということはできない。のみならず、これを実際上の見地から考えても、訴願裁決が取り消されても原処分は当然には取り消されたことにならず、また原処分が取り消されても訴願裁決はなおその形式上有効な存在を失わないのであるから、裁決の取消に附随して原処分の取消を求め、あるいは後者に附随して前者の取消を求めることも必ずしも無意義かつ余計な請求ということはできないし、他面これによつて裁判所が特に不必要な審理判断を要求されたり、被告行政庁が応訴について余計な労力を強いられるという不都合も生じないのである。このように考えてくると、訴願裁決庁を被告として原処分とこれを認容した訴願裁決の取消をあわせ求めることが許されないとする理由はどこにもないから、被告の上記主張は排斥をまぬかれない。

三、本件各試掘権はすでに期間満了により消滅しているので本件表示変更処分、本件異議申立棄却決定の取消を求める利益が喪失したという被告の主張について。

(一)  鉱業法第六一条の規定によるいわゆる表示の変更(鉱区図の更正及びこれに基く鉱業権の変更登録)は、本来鉱区図の記載が真実と相違する場合にこれを実地と一致させるために行う鉱区図の単なる更正及びこれに伴う鉱業権の変更登録にすぎず、これによつて当初の鉱業権の実質に変動を生ぜしめる趣旨のものでないことは、被告の主張するとおりである。しかしかような趣旨でなされる変更処分といえども、実際問題としてはその変更処分自体が官庁の誤つた判断の下になされ、その結果事実上鉱区の範囲に異動を生ずる場合がありうるわけであつて、もしこの場合正しい鉱区の範囲がどのようなものであるかについての当該官庁の判断が拘束力をもち、変更処分自体が取り消されない限り当初許可された鉱業権の及ぶ鉱区の範囲は専ら変更に係る鉱区図によつて決せられるという効果を生ずるとすれば、それは形式上は単なる表示変更処分であつても実質上は鉱区自体の変更処分に外ならないから、かかる処分によつて権利を侵害された鉱業権者がその取消を訴求する利益を有することは当然であり、またかかる利益は鉱業権自体が存続期間の満了によつて消滅したのちにおいても失われるものでないことも明らかである。しかし表示変更処分が認められた上記の趣旨や、現行鉱業法が右の表示変更処分を職権で行いうるものとし、これにつき当事者の意見聴取その他の手続を経由することを要求していない点から考えると、右の処分には上述のような拘束力はなく、関係者はいつでも右表示変更処分自体が誤つていることを主張して許可当初の鉱区図に従い正当な鉱区の範囲を主張することができるというのが法の趣旨であると解するのが相当であるとも考えられる。もしそうだとすれば、表示更正処分自体は鉱業権者の権利に法律上なんらの消長を与えるものでないから、果してそれは取消訴訟の対象たる行政庁の処分といえるかどうかも問題となりうるわけである。しかしこの場合においても、鉱業原簿上かかる誤つた鉱区の表示変更がなされたまま存在することによつて当該鉱業権者がその権利の行使につき諸種の不利益を受けることは明らかであるから、鉱業権者はかかる処分をいわゆる行政庁の処分としてその取消を訴求しうると解するのが相当であり、被告もまたこのこと自体はこれを争つてはいない。ただこの場合の訴の利益は、主として当該変更に係る鉱区図の表示のもつ公証的効力(確定的なものではないにしても)により鉱業権者が現に受けている事実上の不利益を排除する点において認められるものであるから、鉱業権自体が期間の満了等により消滅するに至つた場合には、右の意味における訴の利益も消滅するのではないかとの疑いがあり、被告はこのような見地から訴の利益の消滅を主張しているもののようにみえる。しかしこのような場合においても、なお表示変更処分の取消を求める利益がないとはいいきれない。何となれば、元来鉱区図の表示は、後に詳述するように必ずしも実地と一致せず、そのために許可された鉱区が現実にどの範囲であるかにつき紛争を生ずることが少くなく、しかもかかる範囲の確定には鉱区図の解釈、現地の測量調査等かなり高度の技術的知識を必要とし、必ずしも客観的に明白なものとして容易にこれを決定し難いものであり、かかる場合における許可官庁による現地調査にに基く鉱区の認定は、関係者に対してつよい権威と力をもち、その紛争解決の重要な基準となる働きをもつているから(現に本件においても、証拠によれば、本件秋田県試登第一七、一八二号鉱区と隣接鉱区同県試登第一七、五五一号鉱区の境界に関する紛争から端を発して仙台通産局長の認定でこれに基く本件表示変更処分がなされるに至つた事実を認めることができる。)、鉱業権の存続期間満了による消滅後といえども、かかる鉱区範囲に関する紛争が残存している限り、なお表示変更処分の取消を求める利益がないとはいえないからである。のみならず本件においては、さらに次のような理由からも原告の訴の利益を肯定するのが相当である。すなわち(証拠)によると、原告らは本件各試掘権の期間満了に先きだつ昭和三三年三月仙台通産局長に対し本件表示変更処分によつて本件各試掘鉱区として認定きれた区域のうち七、六〇三アール及び右鉱区外で訴外栗駒鉱業株式会社が試掘権を有する隣鉱区に属するものと認定された区域で原告らにおいて鉱区内であると主張する本件係争区域七、七三六アール(以下本件採掘出願地という。)についてそれぞれ別個に採掘権の設定出願をし、同月一四日これが受理され、その後前者については採掘権の設定登録がなされたが、後者については本訴の結果を待つて許否の決定をされたい旨の原告らの申出によつて許否の決定が保留されていることを認めることができる。ところで右保留中の原告らの採掘権設定出願の許否がもつぱら本件各試掘権の鉱区をどのように認定するかにかかつていることは、鉱業法の規定上明白である。すなわち、仮りに本件各試掘鉱区を本件表示変更処分において認定されたように(すなわち本件変更図のように)認定するとすれば、本件採掘出願地は当然隣接する他人の鉱区に属するものとされる結果、右区域の採掘権設定出願は鉱業法第三〇条の規定によつて許可されないこととなるのに反し、仮りに本件表示変更処分におけるような認定が不当であつて原告の主張するように本件採掘出願地も本件各試掘鉱区の区域内に含まれるという認定がなされれば、本件採掘出願地の採掘権設定出願は鉱業法第三一条の規定のいうように通産局長が当該区域につきなお試掘を要すると認めない限り許可されることとなるわけである。ところが仙台通産局長による本件各試掘鉱区の認定の結果はすでに本件表示変更処分によつて外部に表示されているのであつて、同局長としては右処分が、違法として取り消されない限り右処分の際に認定したところに基いて原告らの採掘権設定出願を不許可とするであろうことは火を見るよりも明らかであり、同局長が原告らの申請を容れて原告らの採掘権出願につき許否の決定を留保しているのも、もつぱら本訴訟結果によつて右の許否を決定しようと考えているがためにほかならないと推認されるのであり、またそれが公正な態度というべきである。このような事情の下において、被告の主張するように、原告らに対して本訴を取り下げ、原告らの採掘出願に対する仙台通産局長の不許可処分をまつてこれに対する抗告訴訟を提起するという迂路をとるべきことを要求するのは、原告らに対していかにも酷であり、また訴訟経済の目的にも合致しないというべきである。もともと訴の利益の有無は、機械的形式的に決すべきではなく、判事の実質に即し、果して原告の求める権利救済が現在の段階においてこれを付与するに値するだけのものであるかどうかを慎重に検討して決せらるべき問題であり、原告が行政庁による公権力の行使に対する権利救済を求める場合においては特にそうである。本件の場合においても、本訴訟の結果のいかんにかかわらないで採掘出頭に対する許否の決定がなされ、したがつて現在の段階においては右の出願に対していかなる決定がなされるかを予測し難いというのであれば、あるいは本訴訟を維持する利益を原告らに認めることはできないかもしれない。しかし本件表示変更処分の適否が原告らの採掘出願に対する許否の決定を左右する関係にあり、さればこそ右許否の決定をする行政庁自身も本訴訟の結果をまつて右の決定をしようとする態度を示していることは前述のとおりである。このような場合に採掘出願の不許可処分に対して右表示変更処分の違法を理由として争うことができるという理由で訴訟維持の利益を否定するのは、あまりにも形式的機械的な解釈たるのそしりを免かれない。もつとも、本件の場合においても、仙台通産局長が原告らの希望にもかかわらず原告らの採掘出願に対して不許可処分をしてしまえば、もはや右のような理由によつては本件訴訟を独立して維持する利益は失われるかもしれない。しかしこの場合においても、原告らは右不許可処分の取消請求に訴を変更し、従来の訴訟状態を利用することもその請求の根本趣旨を同一にするものであることからあながち不可能とはいえないのである。以上の次第で原告らはその試掘権存続期間の満了にもかかわらずなお本件表示変更処分および本件異議申立棄却決定の各取消を求める利益を有するものと解すべきであり、被告の主張は理由がない。

四、一般に行政庁に対して行政処分をすべきことの給付判決をすることは許されないので被告に対し、仙台通産局長に対して原告ら主張のような表示変更処分をなすべき旨を命ずることを求める請求は不適法であるという被告の主張について。

一般に行政庁がある行政処分をする前に裁判長が行政庁に対して当該行政処分をなすべきことを命ずる給付判決をすることができるかどうかは、これを明らかにした明文の規定がないため解釈上問題のあるところである。しかし憲法の認める行政と司法の分立の原則に照らせば、一般にある行政処分をするかどうかは第一次的に行政庁自身の判断に委ねられているものと解すべきものであり、裁判所が行政庁のしたかかる判断の適否を事後に審査することを超えて右判断前に行政庁を拘束するような裁判をすることを一般的に認めることは、行政権の独自性を著しく毀損し、司法権の行政権に対する過大な統制を結果することとなるから、原則としてこれを否定すべきものである。したがつて本件訴のうち被告に対し、仙台通産局長に対して原告ら主張のような表示変更処分をなすべき旨を命ずる内容の判決を求める部分は不適法として却下を免れない。

第二、本案の判断

一、原告村本が昭和二四年八月二五日秋田県雄勝郡東成瀬村及び岩手県磐井郡厳美村にまたがつて別紙第一図面の(一)(二)(本件出願図(一)(二))記載の区域につき試掘権設定の出願をしたこと、昭和二七年四月二日付で仙台通産局長が同原告に対し秋田県試登第一七、一八一号及び同第一七、一八二号をもつて別紙第二図面の(一)(二)(本件許可図(一)(二))記載の区域について試掘権(本件各試掘権)設定を許可し、その登録がなされたこと昭和二七年一二月二日原告小山田が原告村本とともに本件各試掘権の共有権者となつた旨の登録がなされたこと、仙台通産局長は、昭和三一年一月一七日付で職権により本件各試掘権につき鉱業法第六一条の規定に基き鉱区の境界、面積につき別紙第三図面(本件変更図)記載のように表示変更処分(本件表示変更処分)をしたこと、原告らは右処分を不服として昭和三一年一月二八日被告に対し異議の申立をしたが、被告は昭和三一年八月一一日付鉱第一一四号をもつて右異議申立を棄却する旨の決定(本件異議申立棄却決定)をしたことはいずれも当事者間に争がない。

二、鉱業法第二一条第二項は、鉱業権設定の出願をしようとする者は、省令で定める手続に従い、願書に区域図を添えて通産局長に提出すべき旨を規定しており、同法施行規則(以下単に施行規則という。)第四条(昭和二六年に廃止された鉱業法施行細則には第一九条に同趣旨の規定があつた。)は、右区域図に記載すべき事項を列挙しているが、通産局長による鉱業権設定出願の許可は右の区域図に記載されているところに従つてなされるし、鉱業原簿への設定登録も右許可に係る出願鉱区図に基いてなされるのであるから、鉱業権の効力の及ぶ区域、すなわち鉱区は、出願鉱区図に記載されているところ(と出願書に記載される出願区域所在地の記載)にしたがつて客観的に特定にされるものであることが明らかである。すなわち、鉱区は鉱区図を離れてはこれを特定することができないのであり、鉱区図のみ(出願書の出願区域所在地の記載を除き)が鉱区特定の資料となる。ところが前記鉱業法及び施行規則の規定によると、出願書に添付すべき区域図は必らずしも実測図であることを要しないものとされているので、右区域図に記載された鉱業権設定出願地の附近における地形(施行規則第四条第七号)の状況や境界線及び基点と測点とを結んだ線の方位角並びにそれらの長さ(同条第一〇号)等が実地のそれと相違する場合が生ずる。かような区域図を受理した通産局長も、出願された鉱業権設定の許可不許可を決定するについて必らずしも実地の調査を行わないのが実状であるため、実地と異る表示のある区域図がそのまま受理されて許可及び登録の対象となることがあり、この場合には鉱区図(鉱業原簿に綴り込まれた出願鉱区図)上の地形、境界線、基点測点間、測点相互間の方位角、距離その他の表示によつては鉱区が実地のいかなる区域に該当するかが多少とも不明確となる。鉱業法第六一条の規定に基く鉱区の境界あるいは面積についての鉱区図の表示変更は、要するに出願区域を特定するために出願人によつて区域図に記載された地形地物の状況が実地のそれと相違する場合に地形地物の状況と関連して鉱区図に記載されている基点や測点が実地のどの地点に該当するものであるかを客観的合理的に判定して出願人の目的とした鉱区の範囲を実地に照らして正しく認定(いわゆる鉱区の認定)し、その結果に基いて鉱区を正しく図面に表示し直し、そのとおりの変更を登録する処分に外ならない。しかして(証拠)によつても認められるとおり鉱業出願は一般に出願に先だちあらかじめ目的とする鉱床の存在する地域又は存在すると想像される地域を現地調査その他の方法により特定の地形地物との関連において把握し、かつ、これを出願区域中に表示しようとするものであるが、他面鉱業法においては先願者が優先権を与えられているところから一刻を争つて迅速に出願をする必要があるため、出願書に添付する区域図に実測の結果を記載することは実際上も稀であり、したがつて鉱業法の要求する出願区域図上の基点と測点間測点相互間の方位角、距離の記載は、実測の結果に基くことなく、必ずしも正確とはいい難い地理調査所発行の五万分の一地図(五万分図通常はさらにこれを五千分の一に引きのばして)上において右の特定の地形地物との関連において把握した鉱床存在地域をもれなく包摂するように任意に基点、測点を定め、その方位角、距離を図面上で測定したうえその数値を表示するのが鉱業出願人の間でむしろ通常のことであると考えられる。したがつて、当事者の意図の合理的解釈という見地からすれば、鉱区を認定するにつき一般に出願鉱区図上の諸表示のうちでも地形地物の表示を基点測点間、測点相互間の方位角、距離の表示よりも重要視すべきことは当然であつて、後者はむしろ前者によつては鉱区の認定が不可能ないし困難な場合の補助的な資料として取り扱われるべきものであるということができる。(但し施行規則第四条第一〇号が測点相互間の方位角、距離の記載を求めているのは、一に鉱区の面積には最大及び最小限度の制限があるので、その制限内で出願鉱区を特定させようとする趣旨も含まれているとも解せられるので、地形地物の表示のみに基いて鉱区を認定すると右面積の制限を上廻り、あるいは下廻るような区域となつてしまうような場合には、測点相互間の方位角、距離の表示が地形地物の表示と同様に重要な意味をもつてくることとなろう。)また地形地物の表示から現実に鉱区の範囲を認定するについても、図面上鉱区内における他の表示に比較してよりいちじるしい特色をなすか、あるいは一段と重要性を有すると解せられしかも現実に存在するもの(例えば顕著性を有する特定の山、川、渓流、鉱物の露頭等)の表示は、通常これらのものは一見してたやすく人の認識し得るところであるとともに多く不動の存在でもあるので出願人が特にこれらの地形地物との関連において鉱床の存在地域を把握し、これらを鉱区内に包含せしめようとする趣旨からこれを鉱区図中に表示したものと考えられることからいつても、これを他の表示よりもより重視すべきことは当然である。この点につき被告は地形地物の表示のうち鉱区内のそれと基点あるいは測点附近のそれとを区別し、後者を前者よりもより重視すべきであると主張するもののようにみえるが、そのように解すべき合理的理由はない。なんとなれば、鉱区図中における測点の決定は通常上記のようにもつぱら必ずしも正確でない五万分図上において任意になされるものであり、出願人はかかる測点が現実にはどの地点に相当するかを実地について認識するわけのものでないことはもちろん、必ずしも当該測点の附近の地形地物との関連においてこれを定めるものでもないのであるから、かかる測点の現地における認定においてもつぱらその附近の地形地物との関連性のみを考慮すべしとする合理的な根拠はなく、またそれは出願人の意図によく沿うゆえんであるといえないからである。もしこれに反して被告の主張するように測点附近の地形地物の表示を一方的に重視すると出願人の目的とした鉱床が顕著性を有する特定の地形地物との関係で間接に表示されている場合でも、出願人の意図に反してこれが鉱区外にはみ出すこととなり、甚だしい場合にはかかる地形地物との関連において鉱床の存在が直接表示されている場合にすら、同様の結果をきたすことがありうることとなつて、その不当であることは明らかである。このような場合にもなおかかる結果は出願人が測点の表示を誤つた結果でやむをえないとして片づけるのは、鉱業法自体が出願書に添付すべき区域図につき実測図たる点を要求せず、そのために出願人が前記のように必ずしも正確とはいい難い五万分図にたよつて基点測点を表示するのが一般である実情に照らしても、妥当な解釈ということはできない。施行規則様式第一三は備考として基点及び測点附近の地形は成る可く詳細に記載すべきことを求めており、このことは法自身が基点及び測点附近の地形地物を重視すべきことを示すものであるといわれるかもしれないが、これは基点及び測点附近の地形によつて基点及び測点の位置を実地に特定することは技術的に比較的容易であり、しかもそのような方法によることは鉱区内の地形地物の表示と矛盾しない限り何ら不当とは考えられないからであると解せられ、これを基点及び測点附近の地形を鉱区内のそれよりもより重視すべきであるという解釈の根拠とすることは相当でない。

なお、出願人が出願書に添付して提出した出願鉱区図が不備と認められる場合に通産局長が、相当の期限を付して図面の修正を命ずる(鉱業法第一八二条)ことがあるが、出願人がこれに応じて修正した出願鉱区図を提出し、これに基いて鉱業権設定の許可登録がなされた場合には、鉱区の範囲は主として修正後の出願鉱区図によつてこれを認定すべきことは当然である。しかし、修正後の出願鉱区図がなお実地の区域と相違する場合(後述のとおり本件は正にこの場合にあたる。)には当初の出願鉱区図の記載もしんしやくし両者を総合して鉱区を認定するのが相当である。

三、(証拠)によると、原告村本は、昭和二四年本件各試掘権の設定願をするに際し、当初本件出願図(一)(二)を出願図に添付して仙台通産局長に提出したが、同図面は六千分の一の縮尺であり、五万分図を正確に拡大したものでもなかつたため、同通産局長は、原告村本に対し五万分図を一〇倍の五千分図に拡大した出願鉱区図を作成提出すべき旨の修正を命じたところ、原告村本は右修正命令に応じて本件許可図(一)(二)記載のとおり出願鉱区図を修正して提出し、同通産局長は、右図面に基いて本件各試掘権の設定許可をし、そのとおり設定登録がなされたこと、ところが五万分図における本件試掘鉱区附近の地形が実地のそれと相当程度相違していたので、これを拡大した本件許可図(一)(二)に記載された地形の表示もまた実地のそれと相当食い違いを生じ、ために、昭和三〇年ごろ原告らと本件試掘鉱区に隣接する秋田県試登第一七、五五一号試掘鉱区を有する栗駒鉱業株式会社との間に鉱区の境界をめぐつて紛争が生じ、双方の申請に基いて仙台通産局の係官による鉱区の実地調査が行われたことが契機となつて本件表示変更処分がなされたことを認めることができる。したがつて、本件各試掘鉱区の範囲は修正後の出願鉱区図(本件許可図(一)(二))に基いてのみこれを認定するのは相当でなく、修正前の出願鉱区図(本件出願図(一)(二))の記載をも綜合してこれを認定すべきである。そこですすんで仙台通産局長が本件各試掘鉱区の範囲を本件変更図記載のとおり認定したことが前記二に記載したような基準にしたがつて果して適法であるか否かについて判断を加えるが、原告らは本件変更図に記載された本件試掘鉱区附近の地形地物の表示が以下とくにあらわれるところのほかは実地の状況を正確に表示したものであることについて明らかに争わず、弁論の全趣旨に照らしてもこれを争つているものとは認められないのでこれを自白したものとみなし、以下このことを前提として断をすすめる。なお本件の二つの試掘鉱区は隣接して三つの測点を共通にしており、第一七、一八二号鉱区の区域が特定されれば第一七、一八一号鉱区のそれも自ら特定される関係にあるので、両者を一括して判断することとする。

四、本件における主たる争点は、原告らが本件第一七、一八二号試掘権設定の主たる目的であると主張する鉄鉱床の存在する仁郷沢流域及び附近一帯の地域(同所に鉄鉱床の存することは検証の結果によつて認められる。)を本件変更図のとおり原告らの鉱区外と認定するのが相当であるが、あるいは原告ら主張のように本件第一七、一八二号鉱区内にあると認定するのが相当であるかということであるが、そのいずれの認定が正当であるかを左右する重要な点は、本件許可図及び本件出願図における五号測点及び七号測点の位置を実地のどの地点と認めるべきかということである。被告は、まず右五号測点を本件変更図のように認定すべき理由として本件許可図(二)及び本件出願図(二)記載の右測点附近の地形は実地のそれといちじるしく異るのでこれを地形の面から実地に特定することはほとんど不可能なので、主として須川温泉基点三角点を起点として他の測点からの方位角及び距離によつてこれを特定するの外なく、本件変更図五号測点の位置は右の方法によつて本件許可図及び本件出願図に示されたとほぼ同様の数値をもつて認定したものであるから相当であること、さらに本件許可図(二)及び本件出願図(二)における五号測点は附近において顕著な地形上の特徴をなす朱沼の北端に位置しているところ本件変更図の五号測点も略朱沼の北端に位置しているので地形の上からいつても右五号測点の認定は相当であると主張する。さらに被告は、七号測点を本件変更図記載のように認定すべき理由として、本件許可図(二)及び本件出願図(二)に記載されている沢は朱沼との関係その他の理由によつて仁郷沢ではなく朱沢の誤記と解すべきであるから、右図面に記載されている基点川又は仁郷沢の川又ではなく朱沢の川又に外ならないと解すべきところ、七号測点は右基点附近(約二〇〇米)に位置するので本件変更図のような認定が相当であると主張する。

よつて本件許可図(二)を仔細に検討するに、図面の西北端に近く二つの沼の記載があつて、その西側の沼は「朱沼」の名称が表示されており、朱沼の西北端に五号測点が設定されている。また右二つの沼の間を通つて流れる沢の記載があつて「仁郷沢」の名称が表示されており、その川又の一つが基点とされて「基点川又」の表示がある。右基点から四八度三〇分二〇〇米の地点に七号測点が設定されている。そうして四号測点ないし九号測点を結ぶ線で囲まれた区域には「小字仁郷沢」と「仁郷沢国有林」の表示がある。これに対して本件出願図に記載された地形は本件許可図(二)と略同様であるが、鉱区内を流れる沢には名称が付せられていない。しかし、本件出願図(一)ではその鉱区外で隣接の本件第一七、一八二号出願鉱区に流れる沢に「仁郷沢」の名称を表示しているし、また本件出願図(二)に記載されている無名の沢の流域には「小字仁郷沢」の表示もあるので、右図面の沢には「仁郷沢」の表示が脱落しているものと認められる。ところが、本件変更図によつても明らかに認められるとおり、朱沼、仁郷沢はそれぞれ現存の沼、沢であるけれども、実際には沼は附近に一つ(朱沼)しかなく、反対に附近に流れる沢は仁郷沢の外に剣沢と名付けられている沢が存在するし、本件許可図(二)及び本件出願図(二)に記載されている朱沼と仁郷沢の相互関係も実地といちじるしく異つている。すなわち、右各図面では「仁郷沢」は「朱沼」の東側を流れているように記載されているのに対し、実地においては仁郷沢は朱沼の西側を流れており、同沢の東側を流れているのは仁郷沢ではなく剣沢である。被告は右のように本件許可図(二)及び本件出願図(二)に記載されている地形が実地といちじるしく異つているところから、右各図面における五号測点の位置を附近の地形によつて特定することはほとんど不可能であると主張するが、後述のとおり右各図面に記載されている「仁郷沢」、「朱沼」、道路その他の地形に関する表示はすべて現存するものであるから、実地の特定は可成り困難を伴うとはいえ決して不可能とは解せられないので、これらの地形地物をたやすく放棄して主として隣の測点からの方位角及び距離によつてこれを特定することは相当でないといわなければならない。

そこで前述のとおり本件許可図(二)及び本件出願図(二)の「朱沼」と「仁郷沢」の位置の相互関係が実地のそれと矛盾する限りそのいずれかが誤記であるといわぎるをえないので、まずこの点の解明が必要である。すなわち、もし「仁郷沢」の表示が正しいものであるとすれば、「朱沼」の表示は誤りとなつてむしろ二つの沼のうち「仁郷沢」の東側に位置するものこそが朱沼を表示したものであると解すべきこととなるし、反対にもし「朱沼」の表示が正しいものであるとすれば、「仁郷沢」の表示は誤となつてその名称の付せられた沢はとりもなおさず剣沢を表示したものであると解すべきこととなる。しかして検証の結果によつても明らかに認められるとおり、朱沼は南北に長ぐ経約五〇〇米に及ぶ美しい山上湖で附近の地形の中でも非常にいちじるしい特徴を形成しており、このことと(証拠)によつて認められる次のような事実、すなわち剣沢は仁郷沢よりも水量も少く規模も小さい沢であるけれども当然五万分図に記載されるべき程度の大きさの沢でること、本件許可図(二)及び本件出願図(二)に「仁郷沢」として記載されている沢の表示が全体として実地の剣沢の形状に類似していることなどの点を考えあわせると、被告主張のように右各図面の「朱沼」の表示が正しく、「仁郷沢」の表示は剣沢の表示の誤記であると解することもあながちはなはだしく不合理であるということもできない。しかし、次に述べるような諸点を綜合して判断すれば、結局において被告の右主張とは反対に「朱沼」の表示こそ誤記であり、「仁郷沢」の表示がむしろ正しいものであると解するのが正当である。

(一)  検証の結果によると、仁郷沢はV字形の渓谷で沢幅もところにによつて約一〇米にも及び、両岸が高くて沢が灌木によつて覆われることもないために附近の地形においても非常に顕著な存在となつているのに対し、剣沢は沢としてむしろ小規模のものに属し、沢幅も仁郷沢のそれの約二分の一程度であつて流水量も仁郷沢よりも可成り少い上に、両岸に熊笹や灌木が繁茂して沢を覆つているためその存在は附近の地形上必ずしも一見して顕著とはいいがたい状況となつていることが認められるので、本件許可図(二)及び本件出願図(二)に記載されている一つの沢は剣沢を表わしたものと解するよりはそこに名称が付されているとおり仁郷沢を表わしているものと解するのがはるかに自然であると考えられること。しかして前述のとおり本件許可図(二)は五万分図の地形をそのまま一〇倍に拡大して作成されたものであるから、もし本件許可図に記載された「仁郷沢」の表示を「剣沢」の表示の誤記と解するとすれば、五万分図に「仁郷沢」として表示されている沢もまた剣沢を表示したものと解しなければならず、そうとすれば五万分図には仁郷沢の記載が全然欠如していることとなる。しかし、附近の地形における仁郷沢の前述のような顕著性に鑑みるときは、右のように解することは余りにも不自然といわなければならない。

(二)  本件許可図(二)及び本件出願図(二)では鉱区西端の細長い区域に「仁郷沢」の名称を付せられた沢が略真中を流れ、その真中辺の川又には基点が設定されているのみならず、基点川又附近には「小字仁郷沢」と記載され、さらにその東南方には「仁郷山国有林」と記載されており、これらの表示の仕方からみると、仁郷沢流域が附近の地形の最も重要なしかも顕著な特徴として図示されていることがうかがわれるので、これを他の沢(しかも仁郷沢よりもはるかに小規模の剣沢)の誤記と解するのは、余程有力な反証のない限り困難と考えられること。

(三)  本件許可図(二)における二つの沼の記載は、前記のように右許可図の原図である五万分図における二つの沼の記載に則つたものと考えられるところ、成立に争ない甲第八号証の六によれば五万分図においては朱沼なる表示が右の二つの沼のいずれを指すのかは明らかでなく、他方許可図(二)においては西側の沼が朱沼と表示されているが、次に述べるような理由により五万分図においては二つの沼のうち東側の沼が朱沼と指称されているものと認められるから、許可図(二)における西側の沼に附した朱沼なる名称は単なる右図面作成者の不注意による誤記であり(前記五万分図における朱沼の表示のし方が不完全であるためかかる記載誤りが生ずることもありえないことではないかと考えられる)、東側の無名の沼こそが朱沼を指すものと解するのが相当であると考えられること。すなわち五万分図及び本件許可図(二)においてはいずれもそこに表示された二つの沼のうち東側にある沼の沿岸に沿つて須川温泉に向つて道路が記載されており、西側の沼は右道路からかなり離れたところに記載されているが、実地においては小安温泉方面から須川温泉方面に向う道路は朱沼の北岸に沿つて通じており、附近の道路としては右道路が唯一のものである点から考えると、道路の位置が沼の北岸たるべきものが東北岸に記載されているといういささかの誤りはあるが五万分図及び本件許可図(二)に記載された二つの沼のうち東側の沼が朱沼を表示したものであり、西側の沼は現在は実在しないものと認めるのが最も合理的である。一般に鉱区における道路の表示は沢や沼と同様に附近の地形地物の特徴として重要性を有するものと考うべきものであるから、右のように解することには相当な理由があるというべきである。

(四)  (証拠)によれば一般に鉱業出願人が出願に先だち深山地域において探鉱をする場合には沢を遡つてこれを行うのが通常である(現に原告村本は、本件各試掘権出願に先だち実父の指示にしたがつて小安温泉方面から須川温泉に通ずる道路を通つて本件試掘鉱区附近にいたり、渡河点から沢を遡つて鉄鉱床露頭の存在を確認したことが同原告本人尋問の結果によつて認められる)ところ、検証の結果によると、仁郷沢は沢幅も広く両側には岩石の露出個所も多くて鉱床露頭の発見には便利と考えられるのに対し、剣沢はその沢幅も狭く両側から灌木や熊笹が沢を覆つているので沢を遡ることも困難であり岩石の露出個所も少いので鉱床の発見には不便であると考えられるのであり、しかも被告が本件許可図(二)及び本件出願図(二)記載の基点川又として主張する剣沢の川又は、検証の結果によれば附近の地形上とくに著しい特徴をなしているとも認めがたいのみでなく、むしろ通常は近寄りがたい地点に存するのであるから、結局において本件各試掘権出願に先だつ採鉱のよりどころとし、その川又を基点とすることをきめた沢は仁郷沢であると推認するのが自然であり、はたしてしからば本件許可図(二)及び本件出願図(二)に丁度その流域を境界線で覆うように記載されている附近で唯一の沢に付せられた「仁郷沢」の表示が剣沢の誤記であると解することは可成り無理な見方であると考えられること。もつとも、出願鉱区図に記載される基点は必ずしも現地を確認してから設定をする必要はなく、証人松山勤の証言によると実際上も出願人は必ずしも現地の確認をすることなく図面上にあらわされた顕著な地形地物をとつて基点と定める場合も少なくないことがうかがわれる。しかしいかに迅速を尊ぶとはいえ図面はしよせん現地を特定するためのものであるから、出願人は少くとも鉱床の存在する個所あるいは存在すると推定される個所と附近の地形との関係を何らかの方法で(必ずしも現地調査に限らない。)確かめてからはじめて出願するものと考えられるので、出願鉱区図に記載する基点も実地と全く無関係に図面の上だけでこれを設定するということは通常考えられないのであり、したがつて出願鉱区図上基点として記載されている顕著な地形地物が実地においていかなる地点を意味するかを認定するにつき実地における当該地形地物の顕著性を附近一帯の地形地物と比較して問題とすることは決して失当ではない。

(五)  本件第一七、一八二号告区と隣接する秋田県試登第一七、五五一号鉱区の鉱区図との関係でも本件許可図(二)及び本件出願図(二)に記載された沢は仁郷沢を表示したものと解せられること。すなわち、(証拠)によると、訴外三笠米蔵は昭和二五年六月二〇日別紙第五図面(本件隣鉱区出願図)記載のとおり本件各試掘鉱区を含む広範囲の区域につき試掘権の設定出願をしたが、右出願区域には原告村本の先願にかかる区域が含まれていたので右区域を除いて出願鉱区図を修正するよう命ぜられた結果別紙第六図面(本件隣鉱区許可図)記載のとおり修正したうえこれを提出し、右修正図に基いて右三笠から名義変更により出願人たる地位を承継した訴外米陀元次郎に対し試掘権設定の許可がなされたことが認められるが、本件隣鉱出願図を仔細に検討すると、出願鉱区西北端附近には水色の線で囲んだ円形の沼の記載があつてこれに「朱沼」の表示がなされている。その西側に、本件許可図(二)の「朱沼」にあたるところには繭状の長楕円型が黒い実線で記入せられ、あたかも一の台地をなす如く表示されている。この右朱沼と表示された沼と西側の台地らしきものとの中間に沢が表示され「仁郷川」と表示されており、小安温泉方面から須川温泉にいたる道路の渡河点からやや上流の川又が基点として表示されている。右図面によると「仁郷沢」(「仁郷川」となつているが、本件許可図(二)と対比して仁郷沢を意味することは疑ない。)は「朱沼」の西側を流れるように表示されている。しかして右仁郷沢と朱沼の位置の相互関係は実地のそれと一致するので、右図面と対照するときは、本件許可図(二)及び本件出願図(二)に記載されている「朱沼」の表示は本来東側の無名の沼に付せられるべきところ誤つてこれに付せられたのではないかと推認せしめる一つの根拠といいうるところである。しかも本件隣鉱区出願図に対して許可せられた本件隣鉱区許可図においては「朱沼」なるる名称の表示は消え、前記隣鉱区出願図中の黒実線繭状楕円型は再び水色をもつて囲まれて沼を表示するが如く、従つて本件許可図(二)と同じく大小二個の沼が東西に並立する形となつたが、しかもなお右隣鉱区出願図のいわゆる「朱沼」とその西側の仁郷川流域の大部分は原告村本の先願として除かれたものであること、右両図の対照上明白である。また右事件隣鉱区許可図及び同出願図では「仁郷沢」と表示されている沢(但し前者の図面に記載されている沢には「仁郷沢」ないし「仁郷川」の名称が付せられていないけれども、後者の図面及び本件許図(二)と対比すれば「仁郷沢」の表示が脱落しているものと認められる。)の渡河点よりやや上流の川又が基点とされているが、検証の結果によると仁郷沢の渡河点附近は沢幅も広く両岸も高くて附近の著しい地形上の特徴をなしているのに対し、劔沢の渡河点(土橋)附近はその上流一帯は概して平坦な地帯に一筋の沢を流しているものであり、その沢幅もさして広くなく両側から灌木や熊笹が沢を覆つているのでとくに附近の地形上いちじるしい特徴をなしているともいいがたいのみならず、右劔沢の渡河点よりも上流にはしかく近くに川又は存在しないのであるから、隣鉱区許可図及び同出願図に記載されている川又は劔沢のそれではなく、「仁郷川」として表示されている仁郷沢の川又(検証の結果によると、その川又は必ずしも大きなものではなく地形上顕著といえるかどうか疑問であるにしても、現存することは明らかである。)に外ならないと解するのが相当である。しかして本件許可図(二)及び本件出願図(二)はいずれも本件隣鉱区許可図と略同一の地形を記載しているので、前者の図面に記載されている沢もやはり後者の図面におけると同じく仁郷沢を表示したものと解するのが合理的であるということができる。

五、前項において判断を加えたとおり本件許可図(二)及び本件出願図(二)に記載されている沢は仁郷沢であり、「朱沼」の名称が付されている沼は実は現存せず、その東側の無名の沼が朱沼を表示したものであると解すべきものとすれば、右図面において基点とされている川又は当然仁郷沢の川又であると解すべきこととなるし、したがつて七号測点は仁郷沢の東側にこれを認定すべきこととなる。しかるに仙台通産局長が本件表示変更処分において本件許可図(二)及び本件出願図(二)に記載されている基点川又を劔沢の川又と認めたうえ主として本件許可図(二)に記載されている右川又からの距離によつて本件第一七、一八二号鉱区の七号測点を認定し、ひいてさらに五号測点を朱沼北辺の東側に存するものと認定したのは失当といわなければならない。なお本件第一七、一八一号鉱区の二号測点(本件出願図(一)においては四号測点)は本件第一七、一八二号鉱区の七号測点と一致するので右測点について述べたことがそのままあてはまる。

したがつて、本件各試掘鉱区を原告ら主張の別紙第四図面記載のように認定すべきであるかどうかは別として、右に述べたように少くとも二つの測点の位置を誤つたと認められる以上、すでにこの点で本件表示変更処分は単なる表示の変更にとどまらず、事実上本件各試掘鉱区の範囲を変更した違法があるといわなければならない。

第三、結び

よつて本件表示変更処分及び本件異議申立棄却決定の各取消を求める原告らの請求は正当であるからこれを認容し、その余の部分の訴は不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九二条を適用して主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第二部

裁判長裁判官 浅 沼  武

裁判官 中 村 治 朗

裁判官小中信幸は転任につき署名押印することができない。

裁判長裁判官 浅 沼  武

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例